竹本さんは元々国立にお住まいだったり通われていたりなど、国立と縁があるわけではありませんでした。本展の開催が決まってから国立に足繁く通い、この小さな街をあちこち歩き、目が留まった場所を写真に撮り、家に帰って絵に描くという日々を半年のあいだ送りました。そうして集められた国立市周辺の風景は、明るく彩り鮮やかで、国立に思い入れのある方々にとても喜ばれる作品となりました。
竹本さんの作品はリソグラフ印刷をしたものが完成品です。マーカーで描いた原画をPCに取り込み、色ごとにデータを分け、それをリソグラフ印刷で版画のように一色ずつ刷り重ねて制作されています。
作品には2色から4色のインクを使用し、竹本さんが独自で制作された詳細なカラーチャートにより出したい色を選んで刷り重ねていくと、紙の上で絵の具のように色が混ざり、刷った色以上の色が表現されていきます。
原画を色ごとに分解し、リソグラフ印刷により再構築して作品を仕上げるというのが面白いです。竹本さん自身でも意外な色の重なりやリソグラフ印刷特有の版のズレなどがあらわれる偶然が楽しいのだそう。
国立は碁盤の目状に区画整理がされ、「国立市都市景観形成条例」というものが策定され、国立らしい景観を守るような取り組みがされてきました。国立といえば大学通りが有名ですが、大学通りをまっすぐまっすぐ歩いて行くと南武線の谷保駅に着きます。谷保には古い民家や田んぼや畑、古くからある谷保天満宮や小さな商店街などがあり、住所が東京都なのが不思議なほどのどかです。
今回竹本さんの描いた国立周辺は大学通りだけではなく、谷保や矢川、西立川まで及んでいます。マーカーの筆跡である四角と最低限の輪郭線だけというシンプルさで描かれた風景は、その場所に馴染みのある人にはひと目でどこが描かれているのか伝わっているようで、会場からはこれはあそこだねぇというようなお話も聞こえています。
現在の国立駅南口の前には「旧国立駅舎」という赤い三角屋根の建物があります。これは昔は本当に国立駅の駅舎として使われていました。昔と言っても2006年まで使用されていたのでほんの17年前ですね。私はそれより以前から国立に遊びに来たりしていたので馴染みはあるはずなのですが、その頃の姿がまったく思い出せません。写真を検索して見てみましたが、こんなんだったっけ…という感じです。記憶力や思い入れの問題もあるとは思いますが、今毎日見ている景色にどんどん上書き保存されていっているのだろうと感じます。
竹本さんがこの半年の間に描いてきた国立周辺のなんでもない風景や国立らしいと感じる風景も、きっと徐々に変わっていくのでしょう。その時、こうして作品としてその風景を切り取った竹本さんの方が、私よりも変わる前の姿を鮮明に思い出せるのだろうなと思うとちょっと羨ましいです。
竹本侑樹「国立のけしき」は今週末4月2日(日)まで。最後の土日は竹本さんも在廊されますのでぜひ印刷についてなども質問してみてください!ウェブショップの販売期間はいつもよりちょっと短くて、4月4日23:59までとなっています。本展の作品の一部が収録されている冊子『まちのひかり』や「国立駅」トートバッグもありますよ!
竹本侑樹
「国立のけしき」
国立のまっすぐな道を歩いて、目が留まった場所を写真に撮り、家に帰って絵に描く。そんなことを繰り返して拾い集めた風景を展示します。リソグラフを使って版画のように刷られた作品は、自分でも意外な色の重なりが紙にあらわれます。偶然出会った景色と、偶然生まれたイメージを見る方にも楽しんでもらえたら嬉しいです。
期間
2023年3月18日[土]- 4月2日[日]/ 月曜・火曜定休
スタッフ:イイヅカ