Column

2023/03/04
余地|yoti
「香り立つ往日」レポート

余地さんの作品は、長い月日をかけて紙焼けで変化した印刷物や古紙を使用して制作されています。通常であればマイナスの要素でしかない紙の劣化に美しさを見出し、それらを素材として新しい作品に仕上げる。昨今よく耳にするSDGsとかエコとかというよりも、その時間の経過ごと綺麗だと感じているのだと、余地さんとお話をしていると伝わってきます。

紙焼けの濃淡で自然とできたグラデーションを利用して描かれる線は、シャープでありつつも柔らかな光のようにも感じる不思議な線です。描かれているモチーフや数字など、余地さんが直接描いている部分はどこにもなく、すべて素材となる本や雑誌の中から切り出して使用されています。

時間の経過って不思議です。子どもの頃と今とでは感じ方があまりにも違います。私は小学生の頃が一番長く感じていたように思います。あまりにも時間を長く感じるので自分は一生小学生のままなのではないかと疑っていました。しかしそんな事はやっぱりなくて、大人になるに従って時間の間隔はどんどん短く感じるようになり、時間を気にして時計を見る時はたいてい急いでいる時や時間に迫られている時。最近は時計ではなくスマホのデジタル数字でしか時間を見なくなりました。

時計は今現在の時間を見る為の道具ですが、余地さんの時計作品シリーズ「Time Lag」は時間の経過を眺めることのできる時計です。盤面は他の作品同様、50年以上かけてグラデーションに紙焼けした古紙をコラージュし、額は鳥や虫によってあいた傷や穴を木自身が自力で治癒した痕跡のある木材を使用しています。秒針はカチカチ鳴るタイプではなく、音もなく滑るように流れます。淀みなく進んでいく時間と、積み重なってきた時間、時間の厚みと潔さのようなものが見えてくる気がします。

コラージュ作品「Fragrant Past」シリーズは古い本や雑誌から切り抜いた写真や広告の一部を使用して香水瓶を描いている作品です。まるで昔の香水の広告のようにも見えます。個展のタイトルでもある「香り立つ往日」。往日とは過ぎ去った日という意味。匂いによってふと蘇る古い記憶や思い出は、それが良いものでも悪いものでも、時間という効果によってまろやかに響くよう。セピア色の思い出、なんて今はもう使いませんね。

フラワーベースは、散歩の道すがらに見かける、道路の割れ目から顔を出す雑草らをイメージして作られたそうです。土台はセメントで、古紙の部分は防水のコーティングがされているので試験管に水を入れて使用できます。枝物のドライフラワーなどを合わせても、古紙と質感がマッチしておすすめです。

複製プリントのA3ポスターは3,850円とお買い求めしやすい価格ですが、これは原画ではないのですとお伝えすると皆さん驚くという仕上がりの良さです。ベースのコラージュ部分はカラープリントで、液体の部分は発色の良いリソグラフを刷り重ねています。紙焼けの落ち着いたグラデーションも綺麗に印刷されています。

作品の他、余地さんが旅と日常について綴ったエッセイ『WALKING 1』やコレクションであるモン族の襟布をまとめた『モン族の襟布 Hmong Collar』などもウェブショップにアップしています。

余地さんは表装教室にも通われていて、今回展示している掛け軸の作品も、掛け軸の部分からすべてご自身で制作された作品です。同じ教室に通われている70代、80代の大先輩たちは、涸れることのない創作意欲を原動力に皆さんサッパリハツラツとされているそうで、そんな風に歳を重ねていけたらいいなぁと羨ましくもなりました。
 
余地|yoti「香り立つ往日」は3月5日(日)が最終日、15:00-19:00は余地さんが在廊される予定です。時間の重なりを感じる作品を、ぜひ見にいらしてください。

 

 
余地|yoti
「香り立つ往日」

 
歩きながら、ふとすり抜けていく香りの先に想起される時間がある。
紙焼けした古紙のグラデーションから、蓄積された時間を知る。
かすかな希望の香りがする方へ歩いていく。
 
期間
2023年2月18日[土]- 3月5日[日]/ 月曜・火曜定休

ウェブショップ▶︎https://museumshopt.base.ec/categories/4997334
 

 

 

スタッフ:イイヅカ

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