Column

2020/06/19
大多和 琴 Riverbed
レポート

2019年の10月12日、過去最強クラスといわれた台風19号がやってきて甚大な被害をもたらしたこと、まだ記憶に新しいのではないでしょうか。記録的な大雨により川の水はどんどん増えて、濁流は河川敷の姿を変えました。
 
大多和さんは2019年2月9日に、好きだった河川敷を立日橋から上流へ歩きます。
そこで見た光景は、今まで眺めていたものとは大きく異なるものでした。
濁流によりたくさんの草木がなぎ倒され、流されてきた泥や葉などが絡みつき、濁った塊と化していました。

寒くて、風が強くて、冷えた指先の感覚が無くなっていく。
天気の良い、冬のよく晴れた日。
変わり果てた河川敷をひたすら歩いていると、ふと、これはこれできれいだな、と感じたという大多和さん。
 
そんな風に感じている時、前から歩いてきたおばあさんが、「哀れなもんだね。人間もそうだけどさ。」と言いました。
大多和さんは「そうですね。」とだけ返しました。
 
おばあさんの「人間もそうだけどさ」という言葉に、どんな想いが込められているのか、私たちには知る由もありません。
もしかしたらとても重い物語があるのかもしれないし、ないのかもしれない。
でも大多和さんとのこの一瞬の交錯が、なんだか白昼夢のようでとても印象的です。

会場では8枚の絵と8枚のテキストが展示されています。
8枚の絵は低い位置に置かれていて、真上から見るようなかたちになっています。
大多和さんが河川敷で腰をかがめたりしゃがんだりして足元にあるものを見た姿勢を追体験できます。

私もあの台風のあと近所の河川敷を見に行ったのですが、大多和さんのようにきれいだなとは思いませんでした。なので、今回の大多和さんの絵を見た時、確かにあの時に見た、荒れ果てた河川敷の光景なのに、とてもきれいに見えて驚きました。濁った色なのにきれい。
大多和さんの目にはあの光景がこのように映っていたんだと思うと、なんだか少しうらやましく、同時に、こうやって絵にして見えるかたちにしてもらえてよかったと思いました。私は自分と他者の見る世界はこうも違うかと思い知らされるのがとても好きです。

今展示に合わせてつくられたZINEもあります。
展示の一部を持ち帰ることのできるようなものをと、展示されている絵のプリント2点(1枚に両面印刷)とテキストが収められています。当店ウェブショップでも販売していますので、遠方でご来場できない方はぜひご利用ください。
Riverbed/大多和琴ウェブショップページ

 

大多和 琴『Riverbed』 
2020年 6月13日[土]– 6月28日[日]/ 月曜・火曜定休
作家在廊日:13日/14日/20日/21日/27日/28日 の 14:00〜17:00

 

スタッフ:イイヅカ

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