Column

2020/03/27
中野由紀子
『いつもの場所』レポート

中野さんのいつもの通勤路や散歩道にある、ゴミ置場やゴミネット、玄関先に置いてある植木鉢、干された布団に捨てられた布団。私たちが目の端でなんとなく捉えているような生活風景が、中野さんの作品のモチーフとなっています。

記憶の中にぼんやりと漂うそれらをそっと取り出して描きだされる作品は、どこか見覚えのあるような、はたまたまったく知らない場所のような、現実と空想が混じり合う浮遊感があります。

中野さんが週に2回7時間ほどいるこの場所に、それらの纏う所在なげな雰囲気が、この期間中少しづつ混ざり込んで、店内を優しい空気に変えています。

ドローイングをこのように切り取る形の作品にしたのは、museum shop Tがまだcircle gallery & booksという名前で谷保にあった頃のこと。

2017年の春にも展示をしてもらったのです。

その時もモチーフとされているものはほぼ変わりませんが、写真を見るとずいぶんと印象が違います。展示の方法や作品の仕上げ方も変化しているよう。

ドローイングひとつひとつは、儚く頼りなげであった輪郭がしっかりと、色彩もはっきりと明るくなっています。そして展示方法としてのこの木枠とアクリルの板。アクリル板を3枚重ね、1枚目と2枚目の間、2枚目と3枚目の間にそれぞれドローイングを挟み込むことで奥行きが生まれ、窓から向こう側を眺めているような感覚になります。

乳白色のアクリル板に包み込まれたドローイングは、輪郭線も色彩もぼんやりと溶け込み、向こう側が夢なのか現実なのかを曖昧にします。

今の時期、国立は満開の桜と舞い散る桜で包まれて、まるで夢の中にいるような瞬間があります。この展示の記憶と桜の記憶、見た人の中できっと混ざり合って、それぞれの心象風景となるのではないでしょうか。

中野 由紀子 『いつもの場所』は4月5日[日]までの開催です。声を大にして「お越しください!」と言えない状況がとても歯がゆいこの頃ですが、本当はたくさんの人に見て欲しいと思っています。

 

中野 由紀子 『いつもの場所』

2020年3月20日[金・祝]– 4月5日[日]/ 月曜・火曜定休
◎作家在廊日:3月20日・4月5日

 

staff:イイヅカ

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