Column

2020/03/01
高嶋 英男
『鰹節彫刻』レポート

展示会場に入ると鰹節の香りがフワッと鼻をかすめますが、それは一瞬で、人の鼻はすぐにその繊細な香りに慣れてしまうようです。

『鰹節彫刻』という、耳で聞いても目で見ても楽しい違和感を感じる作品をつくる高嶋英男さんは、鰹節彫刻のほかにも、人の身体を型どりした人型を用い人物の特徴を現実、虚構、織り混ぜてインスタレーション化する作品や、本来注目しない花瓶の口の空洞部分を顔に置き換えた人型の陶器など、日常の周辺にあるイメージを拡大、反転させながら作品化しています。

高嶋さんは日本画、工芸、彫刻を専門的に学び、身につけた技術を混交させて用います。府中市美術館にて同時に開催されていた「公開制作77 高嶋英男 からっぽに満たされる」では、粘土を足元から袋状に積み上げて人体を形作る人体像を公開制作しました。この作り方は彫刻よりも陶器の作り方に近く、青色の絵付けや金泥で飾られた表面は陶の質感を持っています。技法や素材にとらわれることのない作品はジャンルを越え、私たちを引きつけます。

鰹節は言わずもがな、食品です。保存のために極限まで乾燥させ、異常なまでの硬度をもつ食品。見た目も古民家の柱のような風合いで、表面はカビに覆われています。

それでも私たちの目には「身近な食べ物」と映り、作品の素材として選ぶことはなかなかないでしょう。

なぜ作品の素材として選ばないのかといえば、まず第一に「食べ物」であり、鰹節の性質上表面をカビで覆われていて「展示」のできる場所が限られてしまうから。

私たちは無意識のうちに、彫刻であるものと工芸であるもの。美術と見なされるものとそうじゃないもの。展示出来るものと展示出来ないもの。というように先入観により線引きをしています。しかしその境界線付近に存在しているものも確かにあって、そのようないろいろなものの間に存在するのが『鰹節彫刻』です。

そんな「あいまい」さもまた魅力的に感じる、と高嶋さんは言います。

先入観で凝り固まってしまいそうになる感覚を、楽しい衝撃と優しい香りで揺さぶってくれる、そんな展示となっています。ちなみに、鰹節を彫ったあとの削り節は、いつも美味しくいただいているとのこと。

高嶋 英男 『鰹節彫刻』は3月8日(日)まで。3月7日(土)に開催するギャラリートークでは、鰹節彫刻についてのほか、中止になってしまった府中市美術館でのトークイベントにてお話される予定であった内容もミックスしてお届けという、盛りだくさんの90分となりそうです。只今ご予約受付中です。お申し込みをお待ちしてます。

 

高嶋 英男『鰹節彫刻』

2020年2月22日[土]– 3月8日[日]/ 月曜・火曜定休
◎作家在廊日:3月5日・7日・8日

【ギャラリートーク】
ゲスト:神山 亮子(府中市美術館 学芸員)
日 時:3月7日[土] 18時00分 – 19時30分
参加費:1,000円(1ドリンク付き)
定 員:20名(予約優先)

ご予約はメールにて承ります。件名に「ギャラリートーク参加希望」、本文にお名前・電話番号・人数をご記入の上、info@t-museumshop.comまでお送りください。

 

スタッフ:イイヅカ

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