松本さんの作品の団地には窓と部屋の中の家具らしき四角いシルエット、耐震用の斜めの鉄骨などが描かれていて、そこに住んでいるであろうはずの人物は描かれていません。カーテンもなく中が丸見えなこともあり、松本さんの作品を見て学校かと思ったという方もいます。かく言う私も学校に見えた一人なのですが、ご来場される方のお話を聞いていると、どうやら団地に興味があったり馴染みのある方はひと目見て団地に見えているようで、そんなところも面白いなと思います。
団地とは同一敷地内に建てられている共同住宅の建物群のことを指し、都道府県や市町村が運営している公営住宅や、UR賃貸住宅などがあたります。所得制限があり割安な賃料設定で提供される賃貸住宅であったり、仲介手数料や保証人、更新料が不要だったり、入居審査の基準が明確であったりと、マンションなどのようにターゲット層を想定した「商品」ではなく、誰にも開かれたインフラのような存在であるというところに松本さんは惹かれ、同時に、同性カップルをはじめとした日本の法律では存在しないことにされている「世帯」には開かれていないという現状を変えていきたいという想いも抱えています。
このようなお話を聞くと、松本さんの描く団地に人物が描かれていないことで、そこには誰でも住むことができて、見ている自分がその窓にいる可能性もあるということ、「誰にも開かれている」のだということを感じることができます。
また、松本さんは各地の団地に足を運び、空いている部屋があれば内覧したりするほどの団地マニアでもあります。前述したような、本来はすべての人に開かれているはずの存在であるという問題への興味もありますが、やはり団地への興味、そして形の集合体としての絵への興味が第一にあるとのこと。
図面ではほぼ同じ間取りでも、前の住人がどれくらいの年数そこに住んでいたか、リフォームを施行した時期や人の入れ替わる時期などの要因で、フローリングの床材やキッチンの建て付け、風呂の施行など、実は意外と変化があるそうです。そんな差異を見つけることが楽しいのだと語る松本さんの団地への熱い想いをぜひぜひ聞いてみてほしいです。
松本さんの残りの在廊日は4月15日(金)と最終日の17日(日)です。団地が好きな人はぜひこの日にご来場いただき、団地への熱い想いをぶつけ合ってください。また、遠方の方やご予定の合わない団地好きの方の為に今週中にウェブショップへ作品をアップする予定ですので、そちらもお楽しみに!
2022年4月2日[土]- 4月17日[月・祝]/ 月曜・火曜定休
※作家在廊日:2日、7日、10日、15日、17日
本展示の会期中、Kunitachi Art Center 2022 を開催しています。国立市内のアトリエ・ギャラリー・店舗14箇所の参加するイベントです。詳細はKunitachi Art Center特設サイトを御覧ください。
スタッフ:イイヅカ