私たちは自分の目を信じすぎている。盲信している。
それは「見えているから」に他ならないけれど、どんなものでも「見えている」時、「見えていない」ところも同時に存在している。しかし「見えている」時に「見えていない」ところを意識することはまずない。
と思ったら、小木曽さんは山の稜線を眺めているとき、いま目にしている山には見えているこちら側と見えていないあちら側が存在するという、凄く当たり前の事を思い出したそうです。すごい。
つくることは、常にあちら側とこちら側がつきまとう。
線を描くことは一方で経験をなぞること。
他方で経験を裏切って道を開くこと。
紙の上で白く残された形はネガとなり、板でくり抜かれた形はポジとなる。
テーブルーソーの刃は線の内側を時計回りで、外側を反時計回りで前進する。
これは今展示の入り口に掲出された小木曽さんの言葉の一部です。
どんな物でも、ことでも、対になるもう一方が存在していて、それは大きく違っていたり、ほとんど変わらなかったりするけれど、そのもう一方を想像する、意識するということが実はものすごく大事なことで、いま必要とされていることなのだというのが、小木曽さんの作品を見ていて思ったことです。
山の稜線や木々のシルエット、きのこの丸みなどを思わせる作品は、厚さ12mmほどの板材でできていて、少ない接地面で台上に自立します。目線を下げて作品に合わせると、作品の空間から向こうの作品が見え、またその作品の空間からその向こうの作品が見える。折り重なり輪郭がぼやけて、それらはひとつの風景と化す。片目を瞑ると視点がズレて、また違う風景が見えてくる。
作品の反対側にまわると、一瞬でさっきまで見ていた色が思い出せなくなる。大きく変わっている部分があると、その隣の小さな変化に気付けない。あまり変わっていないと、「どこかが違う」ということは分かるけれど、どこが何色になったのか、模様が変わったのか、わずか12mmを周り込むだけでわからなくなる。人間の目の適当さがおもしろい。それともこれは私が適当すぎるだけかしら。ぜひ試して見てください。
自分の見ている世界がすべてじゃないんだよね、とポジティブに朗らかに教えてくれるような作品です。
まるで小木曽さんご本人のように、明るく暖かな空間になっています。
今回の展示に合わせて、作品集『MOUNTAINS』も制作し、会場とウェブショップにて販売しています。
B5サイズで1ページに大きく作品が掲載されていて見応えがあります。作品のこちら側とあちら側が1ページごとに載っているので、きっとページを行ったり来たりすることでしょう。
作品集『MOUNTAINS』
https://museumshopt.base.ec/items/35300357
展示は11月1日(日)まで。小木曽さんの在廊日は10月31日と11月1日の各日14時頃からとなります。
実際に目で見ないと感じられないことがたくさんあるので、ぜひ会場へ足をお運び下さい。
小木曽瑞枝
山々/こちら側とあちら側
2020年10月17日[土]- 11月1日[日]/ 月曜・火曜定休
作家在廊日:10月17、18、31日、11月1日 / 各日14時頃より在廊予定
スタッフ:イイヅカ