Column

2020/09/18
川瀬 一絵
『夢にまで見た風景』でとりとめもなく浮かんだこと

目覚めたときまったく忘れさられたとしても、夢みるときの一種寸分の隙もない切実感は、白昼、目覚めているときの日常の「生活感」より遥かに深く直接的な生々しさをもっていて、敢えていえば、「夢みている自分こそ、ほかならぬ自分のまぎれもない本質」で、白昼、「生活している自分は自分の或る装われた部分」であるとまでいい得るほどである。

埴谷雄高
日本の名随筆14 夢 埴谷雄高編
「夢みぬひとはひとりもいないーあとがきにかえて」より

展示会場に飾られているのは、とりとめのない、ぼんやりとした印象の写真です。
これは、川瀬さんが夢で見た風景を思い出しながら撮ったもの。
頭の中で思い出す夢の記憶よりも、「写真」となった風景の方が、夢の感触に近かったと言います。

夢を見ない人はいないと言いますね。おぼえてるかどうかは別として。
深層心理が夢に出るといって夢診断や夢占いをしたり、夢を見ることによって記憶を整理しているのだといったり、古代では神のお告げであるとされたりする「夢」。

今年の7月に開催した近藤南さんの個展『dromen』も、近藤さんの見る悪夢がモチーフとなった作品が並びました。

これだけ身近にある「夢」というものは未だメカニズムがはっきりしていないそうです。
だからこそ、科学や芸術、文学など様々な分野でモチーフにされているのでしょう。
願わくばこのままずっとメカニズムがはっきりしないでいてほしいものです。

川瀬さんの写真を眺めていると、大きな余白となっている白いマットが手伝って、夢を覗いているような感覚になります。夢って全体像が見えなくて、とても狭い視界であることが多いような気がします。パッパッと場面が変わって、真ん中以外がぼんやり霞んでいるような。

他者が見た夢の話を聞くのは、自分が体験していないからまったく実感が湧かないものですが、このような目に見える写真という形で追体験するというのは、新鮮で奇妙な感覚です。

この写真の夢がどんな内容の夢だったのかは、ぜひ川瀬さんに聞いてみてください。

川瀬さんは明日19日(土)から最終日の22日(火・祝)までの4日間すべて在廊予定です。
時間はまちまちになるかと思いますので、ぜひお会いしたいという方は14時以降のご来場をおススメします。

川瀬 一絵『夢にまで見た風景』
2020年9月12日[土]- 9月22日[火]/ 月曜・火曜定休
※21日・22日は祝日営業します
作家在廊日:12日、13日、19日、20日、21日、22日

 

スタッフ:イイヅカ

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