Column

2021/10/08
佐々木愛
「もうひとつの時間」レポート

佐々木愛さんは、物語や神話など人々の「記憶」から呼び起こされるような世界と、現実の世界の交わる情景をインスタレーションや絵画で表現されています。中でも砂糖や漆喰を使ったレリーフ状の壁画作品は、これまでに様々な土地に滞在しながら、旅先の風景を元に古い文様や物語からイメージし制作しています。
今回の展示では壁画作品はありませんが、会場とウェブショップにて販売している佐々木愛さんの作品集『Landscape Stories』にてその様子をご覧頂けます。

その土地で生まれ、育まれ、伝えられた記憶や物語を、目の前に広がる風景と融合させ、白く繊細な砂糖細工で描いた、人を包み込むほどに大きい壁画は、展覧会が終われば跡形もなく消えてゆき、記憶の中に残るのみとなります。まるで、絵の起源とされている何万年も前の壁画のようだなと思います。

今展示「もうひとつの時間」は油彩画と木彫りのレリーフ作品の展示となっています。作品はすべて今年制作されたもの。つまりコロナ渦に生まれた作品です。他者と共有する時間や記憶と、自分の内にある時間や記憶の相違を意識することなく日々を過ごしてきた人々の中には、コロナ渦で期せずしてぽっかりと生まれた穴のような時間の中で、自分の内にある他者とは異なる“もうひとつの時間”を見つけることができた人も多いのではないでしょうか。

佐々木さんの絵画を見ていると、その景色を見た時の佐々木さんの目線や感動のようなものを感じて、記憶を追体験しているような感覚になるときがあります。それは光を感じるように明るくて温かで、優しい記憶。人の記憶は曖昧で、皆それぞれ頭の中で好きなように編集していて、それでも重なる部分に自分の記憶を刺激されたり懐かしさを感じたりします。

佐々木さんは山を見るのが好きだと言います。登ると見えなくなってしまうから、遠くから見るのがいいのだそう。どの山もたまらなく美しい色合いで、特に青色はハッとするほどに目を引き、いつまでも見ていたくなります。

家の形がどれも三角屋根で、佐々木さんは子供の頃から同じような形の家を描いていたそう。昔バイキングが航海を終えてしばらく土地に留まる時、船を逆さまにして家にしたという北欧の古いお話を聞いて、移動手段として使われる船と、その場所に留まる家、相反する二つのものが一つにつながったこの物語がとても印象的だったそうです。上の画像の木彫り作品なんて、船の上に家が乗っていて、それこそ二つのものが一つになっているみたいですね。

木彫りの作品は偶然生まれた木っ端の形をそのまま活かし、異なる形の木っ端を組み合わせたり模様が彫られています。絶妙なカーブを描いていたり、木の肌がそのまま山並みに見えたりと、佐々木さんが楽しんで作られた様子も感じられる楽しくてかわいい作品です。

佐々木愛「もうひとつの時間」は会期の延長が決まりました。一週間延びて10月17日[日]までとなります。普段は美術館など大きな場所での展覧会が多く、また、京都にお住まいなので東京で展示をする機会も多くありません。作品はすべてウェブショップでも同時に販売していますが、できればぜひ直接見ていただきたい作品です。

佐々木愛
「もうひとつの時間」

日々周りの人と共有する記憶、時間軸。
それとは異なるそれぞれが持つ自分の内にある“もうひとつの時間”を考える。
そこで見つけたイメージを手がかりに油彩画と小さな木彫を作りました。

期間
2021年9月25日[土]- 10月17日[日]/ 月曜・火曜定休
※会期を延長いたしました。

 

 

スタッフ:イイヅカ

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