Column

2021/07/16
笠原 出
「観光/ふわり火」レポート

笠原さんは10代の頃『観光』という本に出会い、大変影響を受けたそうです。30代に入り読み返し、これを実践しようと考え、断続的にいろいろな場を巡礼し、いく先々で様々な体験を得ました。以来20年余りが経ち、世界中で新型感染症が蔓延る今、その巡礼を反芻する笠原さんの脳内観光が作品となり本展にて展示されています。

展示作品を見て最初に感じたのは、夏の清々しさです。夏の日差しの暑さから、木の影に入った時のひんやりとした気持ちのよい涼しさ。笠原さんご本人は特に季節を意識して描いたわけではないそうですが、言われてみれば展示作品の内2点以外すべて夏に旅をしていたとのことでした。

本展の作品の一番の特徴と言える「ふわり火」。水彩で描かれた絵の上に、金属箔で施されています。人魂のような、妖怪のような、精霊のような、不思議な存在です。夏を感じさせる絵の上に浮かんでいるので、お盆の送り火や迎え火を連想します。

どのふわり火もにっこりと笑っていて、怖さは感じません。笠原さんのテーマのひとつである「笑い」。人の一過性の感情表出の一つであるその複雑な層を切り口に作品を通じて問いかけ、展開し続けています。初期の心理学的な面でのアプローチから、近年は神話などを通じ、民俗学的視点におけるアニミスティックな「笑い」のあり方を研究しています。

「笑い」には様々な感情が含まれます。嬉しかったり楽しかったりすればもちろん笑うでしょうが、嘲笑や苦笑などマイナスな感情でも人は笑います。さきほどふわり火が笑っているから怖さを感じないと書きましたが、ギャラリースペースの照明を消すと、一転してその笑顔が不気味なものに見えてきます。背景の水彩画の光が暗くなり、金属箔のふわり火が少ない光を集めてぬらぬらと揺れるように見えるのです。これは画像では伝えることができないので、会場にお越しの際には電気を消してお見せしますね。

「笑い」から受け取る感情は、嬉しいから怖いまでありとあらゆるものがあり複雑です。その複雑さを、笠原さんの作品から感じ取ることができます。

笠原さん曰く、これらの作品は部屋の明かりを消して、夜の少ない光で見るのが一番いいな〜とのことです。自然光の入る部屋で、時間帯によって変化する表情をぜひ見てみたいものです。

笠原さんが影響を受けたという、中沢新一・細野晴臣の共著『観光』の文庫版を古本屋で見つけたので、この機会に読んでみようと購入しました。この本は1985年に発行されたもので、現在は絶版となっています。古本屋でも1500円と少し高騰していました。内容は、中沢新一さんと細野晴臣さんが、日本の代表的な霊地を旅して、現代の思想、宗教、物理学、美術、音楽など幅広く語り合う対談集、というより、雑談をそのまま本にしたような感じのラフな語り口の本です。ちょうどYMOが散会して細野さんがソロ活動をしている頃なので、YMOの音楽に関する話もあります。

語り口は軽いのですが内容は霊的なことが中心で、普段からそのようなことに思いを巡らせたり感じたりすることがない私は、正直なかなか読み進めることができていません。この本が発行された1985年から90年代は、そういえばUFOや心霊現象、UMAや超能力などがあらゆるメディアで特集されたり話題になっていたなと思います。身の回りにそのような話がたくさん当たり前にあって、そういうものに大らかだったし、自分も見てみたいなぁと思ったりしていました。インターネットが普及し、画像や映像は簡単に加工できるらしいということが周知され、今では超常現象の類はあまりメディアで見かけなくなりました。

それでも、ちょっと遠くの山や川に行けば漠然としたエネルギーを感じるし、大きな木や岩を見れば畏怖のようなものを感じ、寺社仏閣へ行けば心がしんとしたりしていました。それが、感染症が蔓延し、外出制限がかけられた頃から今まで、そういえばそのような場所に行っていないし、行こうと思う気持ちが小さくなってしまっていると、笠原さんの脳内観光を眺めていてい気がつきました。頭ばかりが働いていて、心があまり動いていない。

ずいぶんと個人的なことを書いてしまった気がしますが、笠原さんの作品を見て、『観光』を読んで、自分の内面に思いを馳せたのでした。『観光』は私の私物をギャラリースペースの入り口に置いてありますので、ぜひ中身をパラリと読んでみてください。しっかり読みたくなったら古本屋さんなどで探してくださいね。私は近々山にでも行こうかと思います。

会期は7月25日(日)まで。笠原さんの在廊日は17日12:00-19:00、18日14:00-19:00、23日18:00-19:00、24日12:00-16:00、25日16:00-19:00の予定です。
会期中に当店ウェブショップにて展示作品の販売を開始します。ウェブショップでは各作品の個別写真もご覧頂けますので、ご来店の難しい方にも楽しんでいただければと思います。販売を開始しましたらこちらのページとSNSにてお知らせします。

ウェブショップでの販売を開始しました。
https://museumshopt.base.ec/categories/3644486

  

笠原 出
「観光/ふわり火」

期間
2021年7月10日[土]- 25日[日]/ 月曜・火曜定休
※作家在廊日:10日昼頃、11日14:00-19:00、14日16:00-19:00、17日12:00-19:00、18日14:00-19:00、23日18:00-19:00、24日12:00-16:00、25日16:00-19:00
※新型コロナウイルスによる影響で、営業については変更となる場合もございます。

  

  

スタッフ:イイヅカ

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