ころもちさんの絵をみてはじめの印象は「かわいい」でした。でもじっくり見ていると何かおかしいな…という気持ちになってくる。鳥だと思って見ていたけどコードのようなものが出ている。猫だと思って見ていたけど背骨のようなものが見えている。花だと思って見ていたけどヘビみたいなものがこんがらがっている。
イラスト作品はすべてコットン紙にジークレープリント。エディションは全作品2点ずつです。デジタルで着彩し、写真画像を加工して使用しているものもあり、コットン紙の温かみと、石のザラッとした質感や大理石のような硬くひんやりとした質感も感じる不思議な印象となっています。
タイトルも面白くて、作品を見てタイトルを見ると頭の中に物語が広がっていきます。
『鳥のようで』
…鳥じゃない、のでしょうか。よく見れば鳥のいちばんの特徴である翼がなくコードのようなものが出ていて、それでも第一印象で「鳥だ」と思う人が大半でしょう。
『せぼねこ』
ふっくらとした尻尾がかわいい猫。魚の骨を前足で押さえていますが、その骨が猫の背中に続いているようにも見えます。骨の最後は根っこのように広がっていて、物語を想像するとちょっと怖いお話しになってしまいそう。
『見えないから想像する』
まるく大きな花瓶に、花よりも葉が目立つか細い植物。花瓶の大きさとはチグハグな華奢な花の、花瓶の中はどんなふうになっているのでしょう。
『三羽』
鳥と植物が描かれていると思ったら、よく見たら三羽います。真ん中の鳥の模様だと思っていたら右上の鳥の模様だったし胴体が線だし、植物だと思っていたら下の鳥の尻尾でした。
『こんがらがる』
かわいい花に蛇がからみついているなと思っていたら、変なところに頭と尻尾が入り込んでいるし複雑にこんがらがっていて、もうこの蛇はずっとこのままかもしれません。
『猫のようで』
…猫じゃない、のでしょうか。すごく猫にしか見えないのですが、よく見たら二匹とも頭の部分が被り物のようになっていて…
ころもちさんのイラストの世界観がそのまま立体になったような陶の作品も今回展示販売しています。こちらも一見かわいく、よく見ると奇妙ないきものたち。
『待ちぼうけ』
言われてみればムッとした顔に見えます。でも待っててくれるんだからきっと優しいいきもの。
『とろける』
猫は水分であると言われたりもしますから、とろとろにとろけてバターになってしまうかも。
『通路』
上部の二つの穴は繋がっています。通路なんですね。一体誰のために通路になっているのでしょうね。
『観察』
目力がすごいです。完全にこちら側が見られる対象となっています。体を小さく折りたたんでこちらを見てくるさまは妖怪とか妖精とか、そんな不思議な存在に見えてきます。
『間違い』
蛇の頭のような、チンアナゴのような、頭だけの姿。頭を出す場所を間違えたのか、はたまた間違えて頭だけになってしまったのか…
展示スペース中央のテーブルにはころもちさんが日々描いている、ころもちさん曰く「落書き」のドローイングノートが6冊置いてあります。一冊一冊ボリュームたっぷりで、巻末に記された日付を見ると2ヶ月くらいで一冊描き終えているノートもあり、筆の速さに驚かされます。迷いなく引かれた線はイキイキと勢いがありとても気持ちがいいです。このノートを作品集として欲しいと言われるほど人気のドローイングノート、ぜひ会場でじっくりと見ていただきたいです。
鳥なのか鳥じゃないのか、花なのか花じゃないのか、どうしても定義づけしたくなってしまうけど、はっきりしない存在というものは存在している。余白が多いからこそなんだろうかと物語を想像するのが楽しくて、不思議だから気になって愛らしい。
中村ころもち「neutral」はいよいよ今週末2月6日(日)までの開催です。ウェブショップでは2月15日(火)まで販売しています。明日2月5日(土)は中村ころもちさんが15時頃から18時頃まで在廊する予定となっています。不思議でおかしないきものたちをぜひ見にいらしてください。
それは鳥であると同時に鳥ではない。
それは花であると同時に花ではない。
それは〈思い描いたイメージ〉であると同時に〈思い描いたイメージ〉ではない。
それは〈表れたかたち〉であると同時に〈表れたかたち〉ではない。
期間
2022年1月23日［日］- 2月6日［日］/ 月曜・火曜定休
exhibition 48
artist｜中村ころもち
region｜府中市（東京都）
1992年千葉県生まれ。2015年東京学芸大学教育学部初等教育教員養成課程美術選修卒業。2017年東京学芸大学大学院教育学研究科(修士課程)美術教育専攻修了。
日々ノートに絵を描きためている。描いた線画をもとにPC上で着色した絵画や、陶の作品制作を行う。第219回The Choice入選。
スタッフ：イイヅカ